米国国立がん研究所は「ガンは1つの病気ではなく、細胞が異常に増え続けるという性質を持つ100種類以上の病気の総称」と説明しています。
がんと一口にいっても性質はさまざまで、早いうちから転移や浸潤を始めるがんもあれば、ゆっくりと成長し、あまり転移しないガンもあります。
一般的には悪性度が高く、遺伝子の変化が多いとガンは転移しやすくなります。
転移しやすいがんには、乳がん骨肉腫、悪性黒色腫(メラノーマ)すい臓がんなどがあります。
周囲の組織に浸潤しやすいがんとしては、卵巣がん、スキスルと呼ばれる特殊な胃がんが知られています。
たとえば乳がんは、乳房の乳腺に発生しますが、腫瘍は小さくても早期からがん細胞がこぼれ落ちて周辺に転移しやすく、わきの下のリンパ節に転移します。
さらには骨や肺、肝臓、脳などに遠隔転移することもあります。
一般的には転移や浸潤が早く始まるがんは、再発もしやすいとされます。
逆に、子宮頸ガンや甲状腺がんは遠隔転移を生じる頻度は低いとされています。
がんが転移しやすい部位もあります。
血液もリンパ液も全身を循環しているので、全身のどこに転移しても不思議はないはずですが、なぜか肝臓、肺、脳、骨などに限られています。
がんの種類によって転移しやすい部位があることも知られています。
たとえば、大腸がんや胃がんは肝臓や肺、腹膜、乳がんは骨、肺、肝臓、脳などです。
転移しやすい部位が決まっているのにはいくつか理由が考えられます。
1つは、血流の問題です。
大腸がんや胃がん、肝臓がんといった消化器がんが転移しやすいのは肝臓です。
肝臓はいわば人体の化学工場です。胃や腸、すい臓などの消化管を通過した血液は、門脈という血管を通っていったん肝臓に向かいます。
胃や腸で生じたがん細胞も門脈の血液中に入り込むと、それは必ず肝臓に向かいます。
肝臓には毛細血管が網の目のように広がっているので、その行き止まりにがん細胞が引っかかって癒着し、そこで増殖が始まるとみられています。
肺も転移が多い部位です。胚は全身からの血液を受け取り、二酸化炭素を取り除いて酸素を供給します。
そのために肝臓と同様、肺の内部には毛細血管が網の目のように広がっており、やはり血管の行き止まりにがん細胞が癒着しやすい状態です。毛細血管が多い脳も、転移しやすい部位の一つです。
脳内を通る血管は他の毛細血管より壁が厚く、血液脳関門もあって異物を通しにくい構造ですが、がん細胞は血管壁のたんぱく質を溶かして血管壁を通り抜け、脳組織の中に入り込みます。
転移しやすい部位が決まっていることのもう一つの理由が、がんの種類と臓器の親和性です。
がんの種類によって転移しやすい臓器があることは古くから知られており、がん細胞という”腫”が成長に適した”土壌”すなわち臓器に達したときのみ、転移が起こるという意味で「種と土壌の理論」と呼ばれてきました。
現在ではこの現象は、転移先の組織が分泌するケモカインと、がん細胞表面に発現するケモカインと結合する受容体の関係で決まるのではないかなどと考えられています。