漢方薬の基礎知識

漢方薬の基礎知識

漢方薬と民間薬の違い

前回に引き続きまして漢方薬の基礎知識ということでお話をいたします。

漢方薬と民間薬というのがありまして、よく「げんのしょうこを飲んでおります」、「どくだみを飲んでおります」といわれまして、そして患者さんはそれが漢方薬であると思っているようです。
中には「便秘をするからセンナを飲んでおります」という患者さんもあります。
しかしセンナというのは西洋の生薬で、漢方薬ではありません。
ところが漢方薬と日本の民間薬は、材料的に区別することは非常に困難でありまして、漢方薬として私たちが用いているものを、民間薬として素人が用いているものもずいぶんあります。
また逆に、民間薬として素人が用いていたものを、私たちが漢方薬として取りあげる場合もあります。
したがって、漢方薬も民間薬を母体にしてだんだん発達してきたものでありますから、その使用法によって両者は区別されます。

たとえて申しますと、自然食の店へゆきますと人参茶というのを売っております。
朝鮮人参を材料にした顆粒状のものやエキス剤があり、これは元気が出ますとか、不老長寿の効があるとかと効能をいって売っております。
丈夫になりたかったらとうですかなどといって私にもすすめてくれました。
それで「私は丈夫だからいいです。どうもありがとう」といって笑って帰ってきたのですが、こうなりますと朝鮮人参はもとは漢方薬であっても、ただ丈夫になりたいというのでお茶として飲むなら、これは民間薬として用いることになるわけです。
どくだみは民間薬として非常にすぐれたものであり、これは生のものと乾燥したものとでは働きがまるで違うという、非常に面白い作用を持っておりますが、ここで詳しいことを申し上げる時間はありません。
しかし私たちはこれを漢方薬の中に取り入れて、漢方の薬と一緒に処方として用いております。

漢方ではどくだみを魚腥草という名で呼びます。
これに甘草を加えて、漢方で心不全などによく使う木防已湯という処方に加えて狭心症の患者にやりますと、狭心症の発作が起こらなくなったり、非常によくなります。
そうして見ますと、どくだみも漢方薬となるということになります。
ただ、どくだみをお茶代わりにして飲むというのでは、これはやはり民間薬ということです。
したがって民間薬と漢方薬との違いは、漢方薬は漢方流の診断によってほかの薬と組み合わせて処方として用いる、民間薬は素人判断で民間伝承薬として用いる、ということによって区別ができるわけであります。

漢方薬の性質による分類法

漢方薬は、その性質によって温、熱、寒、冷(凉)、平の五つに分けております。
温は体を温めて新陳代謝を促進する作用のある薬物をいうのであります。
たとえば桂枝ですが、これが肉桂ににたもので、南支那から印度支那あたりに生産するものであります。
これは味がちょっと辛く、辛温と書いてありまして、こういうものが温薬です。
それから五味子、細辛も温薬であります。
大体温薬は刺激性がありまして、口に入れるとピリッとする揮発分の含まれているものが多いわけです。
それから朮というのはオケラの根ですが、これは苦くて温ということになっております。
そうしますと温薬というのは、冷え症であるとか、胃腸の働きが弱いとか、要するに新陳代謝が衰えている場合に、それを奮い起こすという目的で用いるわけではありますが、もちろんこれだけ用いるのではなくて、ほかの薬物と組み合わせて使うわけであります。

熱薬ということになりますと、さらに温の程度の高いもので、温める程度も強く、新陳代謝を亢進させる力も強い薬物であります。
これは附子(トリカブト)が代表的な薬物になっております。
これは非常に冷えて、危篤の状態で脈などもやっと触れるような患者を目標に附子を用いることになっております。

寒と冷は消炎、鎮静というような作用があるものがだいぶぶんでありまして、たとえば石膏があります。
石膏細工の石膏は無水ですが、漢方で使う石膏は、天然の含水硫酸カルシウムでありますから、これは熱の非常に高い場合とか、非常に興奮して騒ぐ場合とか、あるいは湿疹などでひどく体が痒いとか、要するにすべて炎症でも興奮でも、こらえられないくらい激しい状態を目標にして使う薬物でありまして、昔から附子と石膏を上手に使えば名医であるといいますが、これは温める方と冷やす方の両極端の薬ですから、それを上手に使えばたしかに名医であると思います。
それから地黄という、血をふやし、体にうるおいをつけたりする一種の強壮剤ですが、これもやはり冷薬に入っております。
黄連は、非常に苦いもので苦味健胃剤として使われることがよくありますが、これが沈静、消炎の作用があります。

それから平というのは寒、熱、冷どちらにも片寄らない中立の薬物で、これには甘草、大棗(なつめの実)、茯苓(松を切った根の中に出てくる一種のきのこで、マツホドという)、阿膠(馬、ロバなどの皮からとったニカワ)、葛根、木通(あけび)などは平になっております。これらのものをうまく組み合わせることによって漢方の処方ができるわけであります。

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