小松靖弘先生 獣医東洋医学会誌 Vol.13 No.2 ご発表内容要旨
今日の日本は高齢化社会となり、人口の5分の1が65歳以上になろうとしている。
高齢者は犬、猫などをコンパニオン・アニマルとして飼育することに強い希望を持っている。
動物を飼育している人の高齢化とともに、飼育されている動物もまた同様に高齢化している。
種々の病気という観点からすると、人も動物も同様の問題を抱えていると考えられる。
年を取った人は種々の病理学的変化を持つ疾患に罹患していることが多く、高血圧症で、糖尿病、動脈硬化症を同時に発病している、あるいは認知症をなども併発している場合も見られる。
犬、猫でも同様の変化があると考えられる。
この老化という変化は生理学的なものであることから、誰もこれを止めることは不可能である。
それらは免疫応答の機能低下、心臓、肺臓、生殖、脳機能障害など生体の多くの臓器に及んでいる。
この老化に伴う機能低下の抑制は健康維持に良いといわれるもの、例えば抗酸化活性を持つ健康食品などの利用で可能な部分もある。
老人のQOLは脳機能と運動機能障害によって著しく低下する。
我々はこの危険な機能障害を抑制、減少させる必要がある。
その方法の一つは漢方薬である。
漢方薬の中には多くの異なった作用を有する薬物がある。
日本語で「補剤」と呼ばれ、英語では「tonic agent」といわれる一群の漢方薬があり、この種の薬剤は西洋医学、薬学の範疇にはない薬剤である。
十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯などが有名な漢方処方であり、これらの3種類の補剤は貧血、食欲不振、顕著な疲労、慢性病などで体力が低下している時などの体力回復に昔より用いられている。
これら3種の補剤には免疫応答性の賦活、食欲不振の改善、貧血、血液幹細胞の増殖賦活などの作用が確認されている。
人参養栄湯は認知症を改善する可能性がある。
先の報告で、人参養栄湯を30週齢の高齢ラットに30日間経口投与した際に、脳内のオリゴデンドロ細胞の前駆細胞を刺激することが示されている。
そこで、2、3カ月前から認知症を発症している犬に人参養栄湯(カネボウ(株)製)の投与を行い、治療を試みたところ、日常の活動性、生活リズム、食事週間、睡眠行動などの認知症症状の改善が観察された。
このことから、人参養栄湯には初期の段階の認知症を改善する効果のあることが分かった。
本論文ではまた、新規な健康食品の作用についても紹介している。
それは、関節痛の緩和を示すものである。
高齢の動物、特に犬では、膝、肘、脊椎など多くの関節に障害を来たしている。
ハーブ、種子、キノコなど9種類の天然素材を組み合わせて疼痛緩和作用を示す健康補助食品IPS-PP001(SRD-P001)を開発した。
素材の多くのものは抗炎症、鎮痛作用また抗酸化作用を有している。
IPS-PP001は既に人の関節痛に効果のあることが報告されている。
今回、犬の関節痛を対象として、その効果を評価した。
痛みの評価はVAS(Visual Analog Scale)を用いて評価した。
その結果、変形性脊椎症、変形性関節炎などの関節痛の改善を認め、IPS-PP001は犬の関節症障害に有効性を示すことが明らかとなった。
また、投与期間中副作用は認められず、安全な製品と考えられた。