冬虫夏草(とうちゅうかそう)

冬虫夏草(とうちゅうかそう)

冬中夏草とは

昆虫やクモ、一部菌類に寄生するキノコの総称である。
冬に宿主に寄生し、その栄養を吸収して宿主を枯死させ、夏に虫体の頭部から棒状の子実体(キノコ)を生じることからその名が付けられた。
世界中に約350種、日本でも250種(日本特産150種)ほど確認されているが、全てに薬効がある訳ではなく、生薬として珍重されている“冬中夏草”は、日本では産出されない。
主な産地は中国の四川、雲南、青海、チベットなど3000m級の山が連なる高原地帯である。

冬中夏草は、大陸奥地で産出される特殊な生薬のため世の中に広まらず、本草書への初記載は18世紀とかなり遅く、1757年に出版された『本草従新』が原典である。
世界的に注目されるきっかけとなったのは、1993年にドイツで開催された世界陸上選手権において、それまで無名だった中国の女子選手達(馬軍団と呼ばれている)が次々に世界新記録と出す驚異的な活躍をしたことである。
その時、馬俊二コーチ率いる「馬軍団」のスタミナ食に冬中夏草が使われていたことが報じられ、世界中で脚光を浴びるようになった。

中国では『天地自然が万物を産み、陰陽二気の消長がこれを育てる』とする易の陰陽思想に基づき、冬中夏草は夏に植物(陰)となって実を結び、冬は再び虫(陽)と化して輾轉循環すると信じられ、不老長寿、滋養強壮の秘薬として特に珍重されてきた。
現在も、滋養強壮、鎮静、鎮咳薬として、病後の虚弱、インポテンツ、肺結核などに用いられる。
さらに、近年の研究では抗腫瘍性が認められ、各種の癌に有効であることが分かってきた。

基原

子嚢菌亜門、バッカクキン科(Clavicipitaceae),ノムシタケ属のフユムシナツクサCordycepssinensis(BERK.)SACC.が、鱗翅類、特にコウモリガ科(Hepialidae)のコウモリガHepialusarmoricanus OBER.の幼虫に寄生して生じた子実体を虫体と共に乾燥したもの。

子実体は黒色で太く、虫体は蚕に似て表面は明るい黄色で内部は純白色、豊満で充実しているものが良品であり、虫体が黒色のものや、砕けたものは劣品である。
市場品はかつてその大きさにより虫草王、散虫草、把虫草の3種に選別されていた。
虫草王は大型のもの。
散虫草は虫草王以外のもの、或は未選別のもの。
把虫草は、子実体が細く虫体が小型のもので、通常6~8条をひもで結び、これを重ねて140~200gの方形の固まりに束ねたものである。
我が国に輸入される冬虫夏草はこの把虫草である。

生態

冬虫夏草の宿主であるコウモリガは、土中で高山植物の珠芽蓼(Polygonumviviparum L.)の根茎を食べて成長し、4年以上かけて成虫になる。
秋に冬虫夏草の胞子は第3~4齢の幼虫に寄生し、体内の成分を栄養源として菌糸を成長させる。
幼虫の体内には菌糸が充満していくが、体表面は変化がないため、一見生きているようにも見える。
冬になると硬化した幼虫の頭部から菌糸体が伸び出して子実体を形成し、地表に向かって成長する。
春に地表から4cm程のこん棒状の子実体1本、まれに2~3本形成し、先端に子嚢果を作って48日後に胞子が熟成し、それと同時に子実体が萎縮し、虫体は腐る。
生薬の冬虫夏草を作るための収穫時期は、虫体が一番充実している5月下旬~6月上旬にかけてである。

薬能

1.性味

味は甘、性は温。

2.薬効と主治

肺,腎を補い、虚損を補う、精気を益す、止咳し痰を化す効能がある。
痰飲と喘嗽、虚喘、癆嗽(結核性咳嗽)、喀血、自汗、盗汗、陽痿(陰痿)、遺精、腰膝痛、病後の虚弱を治す。

冬虫夏草に関する古典の記述

《本草従新》
肺を保ち腎を益す、止血し痰を化す労嗽を治す。

《現代実用中薬》
肺結核と老衰による慢性咳嗽及び喘息発作、吐血、盗汗、自汗に適する。
また貧血虚弱、陰萎、老人の悪寒、鼻汁や涙の多出などの証にも用いる。

《雲南中草薬》
肺を補う、腎陽を壮んにする。痰飲と喘嗽を治す。

成分

主成分として、cordycepic acid (D-mannitol),cordycepin(3´-deoxyadenosine)が含まれる。
cordycepic acidは冬虫夏草の主成分として単離されたためcordycepicacid(虫草酸)と名付けられたが、後にキナ酸の異性体であるD-mannitolであることが分かった。
D-mannitolは古くから浸透圧性利尿薬として利用されており、冠動脈に直接作用して拡張させる働きもあるため、現在は高血圧症に用いられている。
また、中国で虫草素と呼ばれているcordycepinは1950年にCordycepsmilitaris(蛹草)から単離され、後に冬虫夏草にも含まれることが分かった。
この化合物は核酸系化合物の抗生物質3´-deoxyadenosineであり、冬虫夏草の抗菌・抗癌成分である。
その作用機序はDNA,RNA合成阻害作用といわれている。
一般分析値は、水分10.8%、脂肪8.4%(飽和脂肪酸13.0%、不飽和脂肪酸82.2%)粗蛋白25.3%、粗繊維18.5%、炭水化物28.9%、灰分4.1%である。
その他、ステロール(ergosterol,cholesterol,sitosterolなど)、多糖類、ビタミンB12などを含む。

薬理

1. 呼吸器系に対する作用

冬虫夏草のアルコール抽出エキスは0.1ppm以下の濃度でもinvitroで結核菌に対し顕著な抗菌作用を示した。
抗菌成分であるcordycepinは、結核菌だけでなく連鎖球菌、ブドウ球菌、炭疽菌、皮膚真菌などに対しても強い抑制作用を有する。
水抽出エキスはモルモットの摘出気管支に対し、明らかな拡張作用を示した。
副腎皮質ホルモンであるアドレナリンの分泌を増加し、その気管支拡張作用を増強する。

2. 循環器系に対する作用

カエルの摘出及び生体内の心臓、ウサギの摘出心臓に対して抑制作用があり、拍動を緩やかにする。
また、麻酔下にイヌに静注すると顕著な血圧降下が見られる。

3. 血液に対する作用

中国の馬軍団が毎日の猛練習に耐え、世界大会で優勝できたのは、スポーツ性貧血がなかったためと言われているが、これは冬虫夏草の赤血球増加作用やSOD活性による疲労回復・老化防止作用、解糖経路におけるエネルギー(ATP)産生能亢進作用などが総合的に関与した結果と考えられている。
他に、血小板凝集抑制作用による高脂血症や動脈硬化の改善・予防が報告されている。

4. 免疫系に対する作用

冬虫夏草エキスはヒトのナチュラルキラー(NK)細胞に対して活性増強作用を示した。
その中で、活動期の白血病患者のNK細胞に対してはその活性を増強するが、寛解期においては抑制することが報告されている。
これは、冬虫夏草が生体の免疫能力のバランスに合わせて作用するためと考えられており、免疫の正常化すなわち賦活する働きがある。
その活性成分として、分子量41,000,40,000, 32,000, 16,000の多糖体が報告された。

5. 消化器系に対する作用

慢性肝炎から肝硬変に移行すると腹水がたまりやすくなるが、冬虫夏草の人工培養菌糸体により17例中12例の腹水が消失、5例が減少し、肝機能が改善したとの報告がある。
また、冬虫夏草は肝臓の繊維化を抑制する。
この作用機序は、冬虫夏草が肝臓中のコラゲナーゼ活性を高め、繊維を溶解してヒドロキシプロリンとし、尿中に排泄するためと考えられる。
臨床では、肝炎や肝硬変において、西洋医学的治療を施しても改善が思わしくない患者に冬虫夏草を小柴胡湯と共に併用したところ、1ヵ月で食欲不振、倦怠感、嘔気などの自覚症状が改善し、ビリルビン、LDH,GOT,GPTがやや減少したと報告されている。

6. 泌尿器系に対する作用

冬虫夏草は、腎臓の5/6を切除したCRF(慢性腎機能低下)ラットに対し、BUNやクレアニチンの排泄促進、尿細管の保護、糸球体の圧力低下、細胞性免疫機能改善などの作用により腎不全の進行を抑制し、死亡率を低下させた。
臨床においても、慢性腎炎の患者がステロイドを離脱でき、ステロイドなしで完治したとの報告がある。

アミノグリコシド系抗生物質による薬剤性腎障害を抑制・予防する。
虚血性腎機能低下に対し、腎皮質のミトコンドリアへのカルシウムイオン流入を減少させ、エネルギーを生み出すATPaseの活性を保存することにより、腎機能を改善する。腎機能は年齢と共に低下するが、冬虫夏草は老齢ラットの腎尿細管上皮細胞のDNA合成を促進する。

7. 代謝系に対する作用

インシュリン分泌低下状態において、その分泌を促進し血糖値を下げる働きがある。
また薬品処理した冬虫夏草の培養菌糸体エキスを糖尿病発症マウスに腹腔内投与すると、3~6時間で血糖値を40%低下させたが、これは注射投与のため、内服による冬虫夏草の血糖降下作用には直接結論付けられない。
しかし臨床では冬虫夏草の服用により糖尿病が克服できたとの報告がある。

応用

1. 使用法

散剤として単味で直接服用するか、単味または他薬と共に水で煎じて服用する。
丸剤や散剤に混ぜるか、酒に漬け込んで服用しても良い。
また、料理の中に入れ、主にそのスープを飲んだり、料理したものを食べるという薬膳療法も有名である。

2. 薬剤例

①散剤:0.3~3gを乳鉢などで粉末として1日3回服用する。
②煎剤:A.冬虫夏草3~9gを水で煎じて1日2回服用する。
    B.(冬虫夏草湯)冬虫夏草12g、杏仁9g、貝母9g、麦門冬9g、白きゅう9g、百部12g、阿膠15gを水で煎じて服用する。
咳嗽が強いときは蛤かい末3gを、喀血のひどいときは田七末3gを沖服する。

③丸剤:冬虫夏草9g、白きゅう9g、貝母9g、沙参6g、百部6gの粉末を密で練って、1個9gの丸剤としたものを、1日2回1粒ずつ服用する。

④薬酒:冬虫夏草20gをホワイトリカー1リットルに2週間漬け込んだものを1日盃1~2杯程度に服用する。酒に漬かった冬虫夏草を食べても良い。

3. 臨床応用

◆疲労や病後の虚弱で、食欲不振、自汗、貧血などの症状があるときに、②Aや④を服用する。また、鴨肉や鶏肉、豚肉と共に蒸して食べても良い。
◆インポテンツや遺精などの腎陽虚の症状に、②Aを服用する。杜仲、淫羊かく、肉そう蓉あるいは枸杞子、山茱萸、山薬などを配合したり、海狗腎やアワビ、スッポンと共に蒸して食べても良い。
◆肺結核や喘息など、肺陰虚による咳嗽、喀血、胸痛に、杏仁、貝母、麦門冬、阿膠などを配合し、例えば②Bや③を用いる。側柏葉、人参葉、玄参などと共に水で煎じて服用しても良い。
◆腰や膝の痛みには、④を服用する。
◆その他、腎疾患、肝疾患、糖尿病、各種癌などに用いられる。

4.使用上の注意

風邪をひいて熱や悪寒があるときや、咳が激しく治らないときは服用を控える。
肺熱による喀血には使用しない。

主な参考文献

久保道徳:冬虫夏草、保育社(1996)
難波恒雄:和漢薬図鑑〔Ⅱ〕、保育社
中薬大辞典第三巻、小学館(1985)
漢薬の臨床応用、医歯薬出版(1979)
原色牧野和漢薬大圖鑑、北陸館(1988)
家庭薬新聞、第2351号(1997.8.28)
「冬虫夏草の薬効と成分」 京都大学名誉教授、藤多哲郎 著

 

 

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