がんの再発・転移を考える(2)

がんの再発・転移を考える(2)

転移はなぜ起こるか 転移の3つのパターン

人間の体を構成している無数の細胞は、通常はそれぞれの臓器や組織に固定されており、赤血球や白血球などの血球以外は、その場所を離れて体内を勝手に移動することはありません。
なぜなら、細胞同士が互いにしっかり結びついているからです。
これは良性腫瘍でも同じで、組織内の細胞は自分の場所を離れれば死んでしまいます。
ところが、がん細胞は組織を離れても生き続けることができます。
そして、血液やリンパ液に混じって他の臓器や器官に転移し、そこで増殖を始めます。これが転移です。

転移のメカニズムは次のように考えられています。
がん細胞が上皮内(粘膜層)にできて増殖していくと基底膜(上皮細胞と間質細胞を境界している膜)を破って浸潤していきます。
基底膜の外にはリンパ管、血管があり、転移はそこにがん細胞が入って体内を回ることで起こります。

転移には3つのパターンがあり、
1つは血液の流れに乗って広がるもの(血行性転移)
2つめはリンパ管を流れるリンパ液に乗って広がるもの(リンパ行性転移)、
3つめは播種といって、がんのできた臓器からがん細胞が剥がれ落ち、腹腔や胸腔にばらまかれて広がるものです。

一番近い場所への転移は、原発巣の近くのリンパ節への転移で「領域転移」と呼ばれます。
転移の中ではこれが一番多いパターンです。
たとえば、乳がんならばわきの下のリンパ節、胃がんならば胃を取り巻くリンパ節に転移することがよく見られます。

一方原発巣から遠い臓器に転移することを「遠隔転移」といいます。
遠隔転移は骨、肺、肝臓、脳などさまざまな場所に起こります。
遠隔転移の多くは、血行性転移です。
すべてのがん細胞が転移を引き起こすわけではなく、血管やリンパ管に入り込んだがん細胞のうち、長時間生き延びて別の場所で増殖できるようになるがん細胞は0.1%程度、すなわち1000個に1個程度とされています。
最近は転移のメカニズムを細胞および分子レベルで解明する研究が進み、遠隔転移を引き起こすメカニズムが明らかになってきました。
転移する過程には、細胞接着因子、蛋白分解酵素、増殖因子、血管新生因子、ケモカイン(白血球やリンパ球など細胞を組織に遊走させるのに必要な物質)など多くの分子が関与していることが判明しています。

がん細胞が遠隔転移を引き起こす際には、遺伝子の変化により、次のような現象を起こすと考えられています。

(1)周囲の組織との結びつきを失い、はがれやすい状態になる。

細胞と細胞は通常、しっかりとくっついています。
くっつける役割を果たしているのが、細胞接着因子と呼ばれるたんぱく質です。
がん細胞はこと細胞接着因子の発現を低下させるなどして細胞をはがれやすくします。

(2)運動能力を得て、組織内でふらふらと動き出す。

細胞が動くための装置が細胞の中にあります。
アクチンファイバーという繊維状の物質で、がん細胞はこれを壊したり、再構築したりして動きます。

(3)血管を成長させる物質(血管新生因子)を放出し、新しい毛細血管をつくりだして、がんの近くまで引き寄せる。

がんが成長し続けるためにはより多くの酸素や栄養が必要です。
そのために新しい血管をつくり(血管新生)、血液供給を確保します。
血管新生因子の中でも重要な働きをしているのがVEGF(血管内皮増殖因子)で、がんがこの因子を放出することで新生血管ができます。

(4)血管の壁を溶かす物質を放出して血管内に入り込む。

がん細胞はMMP(マトリックス・メタロ・プロテアーゼ)などの
たんぱく質分解酵素を分泌して血管の壁を壊し、血管内に入り込みます。

(5)血流に乗って他の臓器や器官へと移動し、そこに付着して増殖を始める。

転移する臓器はなぜかほぼ決まっています。
がんの転移する性質というのは、基本的にはある程度の大きさになってから獲得すると考えられています。
多くのがんでは、直径1cm前後まではあまり転移しません。
なぜなら、がんが小さいうちは、組織中にある普通の血管から酸素や栄養を受け取っているからです。
ところが、がんが大きくなるにつれてそれだけでは酸素や栄養が足りなくなり、がんの塊の中に新生血管を作り、そこを流れる血液から補給するようになります。
すると流れ込む血液が増え、がんの増殖がさらに進みます。
たくさんの新生血管ができることで、がんが遠くの臓器まで流れていきやすくもなります。
がんが転移するようになるのは、新生血管が多くできることも大きな原因の一つです。

ご相談はお気軽に

著書「脳を守る漢方薬」

認知症、アルツハイマー病、脳血管障害に、光明、最先端科学で、実証された、漢方薬の効果が明かされる。

「脳を守る漢方薬」

エビデンスの解説、紹介
医学博士 大山博行

漢方薬調合します

同じカテゴリの記事

お悩みの症状から探す

ツムラ医療用漢方製剤(症状別)