細胞が未成熟な状態からしだいにそれぞれの役割をもった成熟状態へと変わっていくことを「細胞の分化」といいます。
その過程は「未分化」から「低分化」へ、そして、「高分化」へと進みます。
一般に未分化の細胞ががん細胞に変わった場合には、高分化の細胞ががん化したものより「悪性度が高い」とされています。
顕微鏡で見たときに姿形が明瞭ではっきりした細胞(分化のすすんだ細胞)ががん化したものをこう呼びます。
高分化のがん細胞は正常細胞に近い形をしており、一般に悪性度が低く、予後が良いとされています。
細胞の分化度、悪性度とも高分化がんと低分化がんの中間の性質をもつものです。
もとの細胞の分化が低く、より速く増殖・転移するため悪性度が高いとされています。予後はよくありません。
まったく分化が進んでおらず未成熟で、もとの細胞の性質を確認できないがんをこう呼びます。
低分化がんよりもさらに分化度が低く、増殖・転移もより速いため、もっとも悪性度の高いがんです。
一般的に予後はきわめて悪いとされています。
乳がん 肺、肝臓、脳、骨
骨肉腫 胚、肝臓、脳、骨
卵巣がん 子宮、大網、大腸、腹膜
すい臓がん 十二指腸、胆管、肝臓、血管、神経、腹膜
メラノーマ リンパ節
スキルス胃がん 腹膜
肝臓がん、すい臓がん、食道がん、膀胱がん(がんの組織のみを切除したとき)、直腸がん、(手術で肛門の機能を残したとき)
がんは治療後2~3年以内に再発することが多く、多くのがんでは遅くとも5年以内には再発するといわれています。
したがって、治療から5年までに再発するかどうかが1つの目安になります。
5年経っても再発しなければ、一般に完治したとみなされます。
ただし、乳がんや腎臓がん、甲状腺がんのように10年以上経ってから再発する例もあり、油断はできません。
再発したがんは、その成り立ちと部位によって、局所再発(最初のがん発生場所の近くのリンパ節または組織で成長する)、遠隔再発(最初のがんの発生場所から離れている器官または組織に転移する)に分かれます。
局所転移や領域転移の場合は外科的に転移巣とその近隣のリンパ節を切除したり、放射線を照射したりすることである程度コントロールすることができますが、遠隔再発したものは今の医学では治すことはなかなか難しいのが現状です。
遠隔転移に限らず、再発したがんの治療は一般的に困難です。
もともとがん細胞は均一ではなく、細胞に多様性が見られます。再発したがんは悪性度の高い細胞の比率が高まる、あるいは悪性度がさらに悪化する傾向があります。
がん細胞は遺伝子の変化によって徐々に悪性化します。
遺伝子の変化が多いものは転移しやすいといわれます。
再発を引き起こしたがんは浸潤や転移に必要な能力を身につけているともいえます。
治療の面でも、再発がんは制約が多くなります。
例外的には、大腸がんや肉腫などは転移巣を再度手術して治ることもありますが、多くの場合、転移巣を1つ取ってもまたすぐに出てくるモグラたたき状態になってしまい、手術してもあまり意味がないといわれます。
また、抗がん剤投与を受けている場合、最初は薬剤感受性が高いがん細胞が死滅して効果が見られても、徐々に抗がん剤の効果が消失します。
しかしその後ある時期に薬剤に対する抵抗性(薬剤耐性)を有するがん細胞が増えて、進行します(Progression Disease:PD)。
放射線治療でも、一度照射したところに再照射すると臓器が致命的な損傷を受けることがあり、再照射できないこともよくあります。
近年は、再発予防のために初回の手術後などに抗がん剤を投与したり、放射線を照射したりする術後補助療法が行われています。
がんが1cmの大きさになったときはどこかにがん細胞が残っている可能性があります。
治癒率を高めるためには、そうした目に見えない体に残っている1万~100万個程度のがん細胞(微小転移)を抗がん剤などで叩くと、がん細胞をゼロに近くすることができます。
また人により異なりますが、人間の免疫力もけっこうあって、10万個以下のがん細胞なら人間の免疫細胞でかなり抑制できるといわれています。
米国では術後に抗がん剤やホルモン剤の治療をしっかりやり、根治率を上げることに熱心に取り組んでいます。
しかし、ひとたび全身再発したときは、多くの場合、結果として助けることはできないので、むしろ残された人生は高いQOLに重点をおいて、治療をやっていこうという明確な考え方があります。
日本はその辺がまだ曖昧で、術後補助療法や緩和医療の遅れにつながっています。