網膜色素変性症【2】

網膜色素変性症【2】

網膜色素変性症とは

網膜 色素 変性 症は目の内側にあってデジタルカメラでいえばCCDセンサーやCMOSセンターに相当する網膜という部分に異常をきたす遺伝性、進行性の病気です。

網膜は光を神経の信号に変える働きをします。
そしてこの信号は視神経から脳へ伝達され、私たちは光を感じることができるわけです。
網膜には色々な細胞が存在していてそれぞれが大切な働きをしていますが、網膜色素変性症ではこの中の視細胞という細胞が最初に障害されます。
視細胞は目に入ってきた光に最初に反応して光の刺激を神経の刺激すなわち電気信号に変える働きを担当しています。
視細胞には、大きく分けて2つの種類の細胞があります。
ひとつは網膜の中心部以外に多く分布している杆体細胞で、この細胞は主に暗いところでの物の見え方や視野の広さなどに関係した働きをしています。
もうひとつは錐体細胞でこれは網膜の中心部である 黄斑 と呼ばれるところに多く分布して、主に中心の視力や色覚などに関係しています。
網膜色素変性症ではこの二種類の細胞のうち杆体が主に障害されることが多く、このために暗いところで物が見えにくくなったり(夜盲)、視野が狭くなったりするような症状を最初に起こしてきます。そして病気の進行とともに視力が低下してきます。
ここで視力というのは、矯正視力(眼鏡レンズなどで、遠視、近視や乱視等を可能な限り補正して測定する視力)のことです。
ちなみに、裸眼視力の変化は病気の進行や網膜の能力の変化の正確な目安にはならないと考えられています。
網膜色素変性症といっても原因となる遺伝子異常は多くの種類があり、それぞれの遺伝子異常に対応した網膜色素変性症の型のあるため症状も多彩です。

網膜色素変性症の頻度

網膜色素変性症の頻度は通常4000人から8000人に一人と言われています。
網膜色素変性症は遺伝子の変化でおこる病気ですが、実際には明らかに遺伝が認められる患者さんは全体の50%程度で、あとの50%では親族に誰も同じ病気の方がいないのです。
遺伝が認められる患者さんのうち最も多いのは 常染色体劣性遺伝 を示すタイプでこれが全体の35%程度、次に多いのが 常染色体優性遺伝 を示すタイプでこれが全体の10%、最も少ないのが X連鎖性遺伝 (X染色体劣性遺伝)を示すタイプでこれが全体の5%程度となっています。

網膜色素変性症の原因

この病気は視細胞や、視細胞に密着している網膜色素上皮細胞で働いている遺伝子の異常によって起こるとされています。
以前は原因となる遺伝子がわかっているのは網膜色素変性症の患者さん全体のごく一部でしかなかったのですが、最近の研究で日本人に多い遺伝子の変化があきらかになって、解析の精度とスピードもアップしてきています。

現在までにわかっている原因遺伝子としては常染色体劣性網膜色素変性症ではEYS、杆体cGMP-フォスフォジエステラーゼαおよびβサブユニット、杆体サイクリックヌクレオチド感受性陽イオンチャンネル、網膜グアニルシクラーゼ、RPE65、細胞性レチニルアルデヒド結合蛋白質、アレスチン、アッシャリン(USH2)などの遺伝子が知られています。
なかでもEYS遺伝子に異常が見つかる例が比較的多いことがわかっています。

常染色体優性網膜色素変性症ではロドプシン、ペリフェリン(PRPH2・別名RDS)が主なものとされています。
X連鎖性網膜色素変性症では 原因遺伝子として網膜色素変性症GTPase調節因子(RPGR)とRP2の2種類が同定されています。
今後さらに原因となる遺伝子異常が同定される見込みです。
遺伝子の変化をみてひとりひとりにあったカウンセリングや治療を目標として、効率のよい遺伝子診断 法が研究されています。

網膜色素変性症の遺伝

明らかな遺伝が確認できる患者さんは全体の50%です。
しかし、遺伝が確認出来ない場合でも体をつくっているさまざまな物質の設計図にあたる遺伝子のどこかに異常であると考えられ、ほとんどはなんらかのかたちで遺伝と関係するものとして考えるべきです。

遺伝の仕方には、常染色体劣性遺伝、常染色体優性遺伝およびX連鎖性遺伝と少し特殊になりますが、 ミトコンドリア 遺伝があります。
常染色体性の遺伝では発病に性差がほとんどみられません。
常染色体劣性の遺伝のしかたは、両親に同じ病気が認められず、兄弟姉妹に同じ病気の患者さんがいる場合にはこの形式の遺伝のしかたが疑われます。
両親が血族結婚であったり、同じ地域の出身や親戚どおしの場合はその可能性が高くなります。
これは病気を起こす遺伝子の同じ変化を両親からそれぞれ受け取りやすくなるためです。

遺伝子は父親由来のものと母親由来のものがありますが、常染色体劣性遺伝のしかたをとる場合はどちらかだけの変化だけでは通常は発病しません。
常染色体劣性遺伝をとる場合、発病しているかたのもつ遺伝子の変化は子供には伝わりますが、同じ様な変化をもっているパートナーにめぐりあう可能性は血縁者でなければ、一般に低くいと考えられます。
別の表現をすると、常染色体 劣性遺伝性 の網膜色素変性症のかた自身が血族結婚をしなければ、子供に同じ病気があらわれる確率は網膜色素変性症をもっていないかたの場合に比べて小さな差しかないと考えられます。

常染色体優性遺伝は、親子でおなじ病気があるときに疑われます。
両親からうけとった遺伝子のどちらかひとつにある変化によっておこります。
疾患をもつかたの子供にもおなじ遺伝子の変化が伝わる確率は50%となります。
実際には、同じ遺伝子の変化をもつ人が、同じ症状で同じくらいの年齢で発病するとも多いのですが、時には大きくちがいがでることがあります。
そのため、この遺伝形式であると確定するには少なくとも3世代での確認は必要だと考えられています。
X連鎖性網膜色素変性症では通常男性が発症し(患者)、その場合患者の祖父が同じ疾患で、その娘にあたる患者の母親が 保因者 (遺伝子異常は持っているが発症しない)という形をとります。
保因者のかたは詳しく検査をすると、軽い変化がみつかることもありますが、自覚症状はほとんどありません。

網膜色素変性症の症状

視細胞の障害にともなった症状がでてきます。
最も一般的な初発症状は暗いところでの見え方が悪くなる(夜盲)ことですが、生活の環境によっては気がつきにくいことも多いようです。
最初に、視野が狭くなっている(視野 狭窄 )ことに気がつくこともあります。
ひとにぶつかりやすくなる、あるいは車の運転で支障がでるといったことが気づくきっかけになります。 
視力の低下や色覚異常は、さらにあとから出てくるのが典型的です。
しかし、コントラストの低い印刷物や罫線が読みづらいことを早くから自覚していることもあります。
日常の生活環境でまぶしく感じる(羞明)、あるいは全体が白っぽく感じることもあります。
この病気は原則として進行性ですが、症状の進行のはやさには個人差がみられます。
また、さらに症状の組み合わせや順番にも個人差がみられ、最初に視力の低下や色覚異常で発見される場合もあり夜盲は後になる患者さんもいます。

網膜色素変性症の治療

この病気には現在のところ、網膜の機能をもとの状態にもどしたり確実に進行を止める確立された治療法はありません。
対症的 な方法として、遮光眼鏡(通常のサングラスとは異なるレンズ)の使用、ヘレニエン製剤(βカロテンの一種)内服、ビタミンA内服、循環改善薬による治療、低視力者用に開発された各種補助器具の使用などが行われています。
遮光眼鏡は明るいところから急に暗いところに入ったときに感じる暗順応障害に対して有効であるほか、物のコントラストをより鮮明にしたり、また明るいところで感じる眩しさを軽減させたりします。
ビタミンAはアメリカでの研究で網膜色素変性症の進行を遅らせる働きがあることが報告されていますが、すべての患者さんにはあてはまらない可能性があります。
通常の量以上に内服して蓄積すると副作用を起こすこともあります。
また、循環改善薬による治療も必ずしも全員に対して有効であるわけではないのですが、使用により視野が少し広がる、明るくなる患者さんがみられます。
確実な治療法がない現在、最も重要なことは、眼科疾患の中でも進行の遅い疾患ですので、視力視野の良いうちから慌てないこと、矯正視力や視野結果を理解して自分の進行速度を把握すること、進行速度から予測される将来に向けて準備をすること、視機能が低下してきても
各種補助器具を用いて残存する視力視野を有効に使い生活を工夫することです。
補助具のうち 拡大読書器 などを使えば、かなり視力が低下してからも字を読んだり書いたりすることが可能です。
コンピューターの音声ソフトによるインターネットやメールも重要です。
将来期待される治療法として、遺伝子治療、網膜移植、 人工網膜 さらに代替レチノイドなどの研究が行われています。
これらの治療法はまだ実際に誰に対しても行える治療法とはなっていませんが、研究段階ですがその成果は次第に上がってきています。
2007年から、アメリカ合衆国とイギリスで、RPE65遺伝子の変化でおこる網膜色素変性症の遺伝子治療が試みられています。
子供のころから発症する重症な網膜色素変性症ですが、安全性の確認とその効果について検討されていて、まだ短期間の観察ですが、有効性が期待できそうな報告がされています。
別の研究グループは、やはりRPE65遺伝子やビタミンAを網膜内で利用に関連する遺伝子の異常でおこる網膜色素変性症をもつ患者さんに「代替レチノイド」を内服してもらう治療研究が行なわれています。
現在のところ、重い副作用もなく今後の治療応用が期待されています。
我が国ではこれらの治療は始められていませんが、新しい治療への動きは着実に始まっています。
日本では、網膜の視細胞をできるだけ長生きさせるように、 神経保護 因子を目のなかで多く作らせるような遺伝子を補う研究が始まっていて、現在安全性を確認する臨床試験が行われています。
人工網膜については、最近我が国で安全性と効果を確かめる試験が行なわれ、臨床応用へと進む可能性が高くなっています。
また、網膜色素上皮細胞の萎縮に対して再生医療を応用する試みも始まっていて、現在、iPS細胞を用いた治療を加齢黄斑変性の患者さんに応用する研究が行われていますが、将来網膜色素変性症にも応用できる可能性がでてきました。

網膜色素変性症の経過

この病気は原則として進行性ですが、その進行の早さには極めて個人差があります。
30代でかなり視機能(視力、視野を合わせた呼び名)が低下する方もいれば、70歳でも1.0の良好な視力の方もいます。
長い経過の後に字が読みにくい状態(矯正視力0.1以下)になる方は多いですが、暗黒になる方はむしろあまり多くありません。
この個人差はこの病気の原因となっている遺伝子異常が非常に多彩であるため、ひとりひとりが異なった遺伝子異常であることに由来するのかもしれません。
しかし、同じ家系の中で当然同じ遺伝子異常と考えられる患者さんでもその進行度や重症度に差のある場合も判明してきましたので、まだわかっていない色々な要因によって病気の進行度や重症度が左右されている可能性があります。
したがって同じ病名であるからといって同じ症状や重症度、進行度を示すわけではないことを十分に理解して下さい。
その上で自分の病気の進行度や重症度を専門医に診断してもらうとよいでしょう。
進行度をみるためには当然1回の診察だけでは診断は不可能です。
定期的に何回か診察や検査を受けて初めてその人の進行度を予想することができます。

近年、通常の眼底検査や眼底カメラ撮影による検査の他に、通常の検査では観察できない網膜色素上皮の変化をみる自発蛍光撮影、網膜の断層撮影が可能な光干渉断層撮影計(OCT)が普及してきました。
これらは比較的、患者さんが負担を感じることが少ない検査で、病気の診断の精度を上げるだけでなく、進み具合などを調べるのに有用であることが報告されています。
また、ほかの眼の病気も合併していることもありますが、白内障は比較的多くみられます。
白内障は水晶体(レンズ)が濁ってくる病気の総称で、高齢になると増える病気ですが、網膜色素変性症の一部の患者さんでは、より若い時からおこることもあります。
水晶体の濁りのため光がまっすぐに目の入らないため、まぶしくなったり、にじんでみえたりします。
網膜色素変性症があっても、手術的に水晶体の濁りを取り除いて代わりになるレンズ(眼内レンズ)に置き換えることは通常は可能です。他に目に病気がないかたにくらべて、眼内レンズの位置が変化する、後発白内障になりやすいなどの合併症はおこるリスクがある程度は高くなりますが、多くは対処(追加の治療)が可能です。手術後の見え方を予想することが困難なこともあるので、手術により得るものとリスクとをよく検討したうえで方針を決めることが大切です。

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