漢方薬のアルツハイマー型痴呆に対する効果

漢方薬のアルツハイマー型痴呆に対する効果

痴呆のメカニズムと究極の漢方、9種類、6種類の生薬調剤の有用性

1.はじめに

高齢化社会を迎え、脳神経疾患が増加すると共に、アルツハイマー型痴呆や血管性痴呆に関心がよせられている。
これらの疾患は特にコリン作動性神経を中心とした神経細胞死を伴うが、その原因の一つにフリーラジカルの関与が示唆されている。
抗痴呆薬としては、今まではタクリンが主流であったが、肝臓への副作用が多いことから現在は発売が禁止されている。
それに変わりドネペジルがエーザイ株式会社により開発され、ファイザー社から売り出されている。
タクリンより少ないものの副作用は確実にある。これら両薬剤の作用メカニズムは、コリンエステラーゼ阻害作用である。
日本薬局方生薬、「芍薬」、「柴胡」を中心とした9種類の生薬を混合してできた漢方薬と、日本薬局方生薬、「芍薬」、「当帰」を中心とした6種類の生薬を混合してできた漢方薬には、我々の研究から強力な活性酸素消去作用が確認された。
さらに、脳循環改善作用、脳代謝改善作用、脳波改善作用、遅発性神経細胞壊死抑制作用、神経突起再生作用、空間認知障害改善作用等が確認され、エストロジェン分泌促進作用も確認された。
この漢方薬(6種類の生薬混合)は、臨床上、卵巣機能不全、不妊症、生理不順、更年期障害といった婦人科領域で応用されている。
更年期障害時にエストロジェンの分泌は減少し、その時期に一致してアルツハイマー病の発症頻度が高い。
この事実から、エストロジェンと痴呆との関係が指摘され、米国ではエストロジェン療法が試みられている。
エストロジェンの分泌を促進するこの漢方薬には、タクリンやドネペジルのような副作用はない。
今回は、6種類の生薬混合漢方薬について、共同研究者であり、友人でもある小松(工学博士)の発表論文より考察を加える。

2.コリン作動性神経賦活作用

アルツハイマー病患者の剖検脳においては、コリン作動性神経の起始核であるマイネルト核の大型神経細胞に、80%の消失が認められている。
またアルツハイマー病患者の剖検脳では、アセチルコリンを合成するコリンアセチルトランスフェラーゼ(CAT)活性の低下やコリンの取り込みの低下、アルツハイマー病患者の髄液ではアセチルコリンエステラーゼ活性の低下が認められている。
これらの知見はアルツハイマー病におけるコリン作動性神経系の変性を明示している。
閉経期のラットにこの漢方薬を投与すると脳内コリン作動性ニューロン、カテコールアミン作動性ニューロンおよびニコチン性アセチルコリン受容体などの活性が高まる。
つまりこの漢方薬には、ニコチン親和性レセプターやアセチルコリン自体を増加させる作用のあることが確認される。
また3週齢のラットにこの漢方薬を1週間投与すると、大脳皮質のニコチン性アセチルコリンレセプター結合能は増加する)、
及び5ヶ月齢の雌性ラットにこの漢方薬を2週間投与すると、脳内のコリンアセチルトランスフェラーゼ活性は増加する。
さらに、老齢ラットにこの漢方薬を4週間投与し、脳内のCAT活性、アセチルコリンエステラーゼ活性及びムスカリンレセプター結合能を測定した結果、線条体においてこれらの活性が上昇したことを認めた。これらの実験成績を勘案すると、この漢方薬にはコリン作動性神経賦活作用のあることが示唆される。

3.ラジカル(活性酸素)消去作用

癌、老化に伴う諸疾患、動脈硬化、糖尿病など様々な疾患及びパーキンソン病などの神経変性疾患にフリーラジカルが関与するという報告が集積されている。
アルツハイマー病患者の剖検脳においては、過酸化脂質の増加、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の増加、ミトコンドリアにおける電子伝達系のチトクロームオキシダーゼ活性の低下が確認されているが、これらの現象は、アルツハイマー型痴呆の発症メカニズムにフリーラジカル(活性酸素)が関与していることを示唆する。
この漢方薬の懸濁液を用いて、抗酸化作用を電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて分析すると、ヒポキサンチン―キサンチンオキシダーゼ系により発生するスーパーオキシド、鉄―過酸化水素のフェントン反応により発生するヒドロキシルラジカル、及びエタノールに溶解した1,1,-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルラジカルを濃度依存性に消去することが確認されている。
またこの漢方薬には、ラット脳ホモジェネート液に鉄とアスコルビン酸を加えて誘導される過酸化脂質の生成を抑制することも確認されている。
さらに老齢ラットの大脳皮質、海馬及び線条体の過酸化脂質の生成を抑制し、ミトコンドリア分画のSOD活性を上昇させることも確認されている 。(平松、小松)
アルツハイマー病の脳においては、アミロイドの蓄積が報告されているが、アミロイドはフリーラジカルを産生する。
この漢方薬のフリーラジカル消去作用や過酸化脂質抑制作用は、アルツハイマー病の進行を抑えるのに有効であると考えられる。

4.DNA障害

DNAは活性酸素種などの酸化ストレスを受けると、グアニンのヌクレオシドである2'-デオキシグアノシンの8位が水酸化され、8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-OHdG)を生成する14)。
8-OHdGは老化、細胞の突然変異及び癌化などを引き起こすことから、DNA損傷のマーカーとして用いられている。
8-OHdGを含むDNAは、DNA合成中にGC(グアニン―シトシン)→ TA(チミン―アデニン)のトランスバージョンを引き起こし、遺伝子変異の頻度を増加させることが明らかにされている。
アルツハイマー病患者の剖検脳において、8-OHdG生成の増加およびその他のDNAの塩基の変異が認められている。
また、8-OHdGは老化に伴い増加することが報告されている。
さらに、6ヶ月齢の成熟ラットと24ヶ月齢の老齢ラット脳の8-OHdGを比較すると、老齢ラット脳の8-OHdGは成熟ラットに比べて増加していることを認め、8-OHdGの生成は加齢とともに促進されることが確認されている。
またこの漢方薬を1ヶ月間投与すると、老齢ラットの8-OHdGの生成は抑制されたが、成熟ラットにおいては変化は認められなかった。
雌雄老化促進モデルマウス(SAMP8)の3~4ヶ月齢と7~12ヶ月齢の脳内8-OHdGの生成を調べたところ、3~4ヶ月齢に比べ7~12ヶ月齢の8-OHdG生成は雌雄ともに増加していた。
またこの漢方薬を1ヶ月間投与すると雄群の3~4ヶ月齢の8-OHdG生成は減少していたが、雌群では変化は認められなかった。老齢ラット脳及びSAMP8雄群の脳内の8-OHdG生成の抑制作用は、この漢方薬のフリーラジカル消去作用によるものと考えられる。(平松、小松)

5.脳細胞死

神経細胞死にはネクローシスとアポトーシスとがあるが、いずれもフリーラジカルが関係していることが明らかにされている。
すなわちヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドにより細胞外のグルタミン酸の放出が促進され、さらにグルタミン合成酵素が失活すると、細胞外のグルタミン酸濃度は上昇する。次いでN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターはグルタミン酸が結合すると活性化し、細胞内にカルシウムの取り込みが促進される。NO合成酵素が活性化され、アルギニンからNOラジカルが発生する。
NOラジカルはスーパーオキシドと反応してペルオキシナイトレートイオン(ONOO-)を生成し、細胞障害を引き起こすという説が支持されている。
この漢方薬を雄性老齢ラットに1ヶ月間投与すると、大脳皮質、海馬、線条体のグルタミン酸量は低下することを見いだした。
また、雌雄老化促進モデルマウス(SAMP8)の3ヶ月齢にこの漢方薬を3ヶ月間投与すると、大脳皮質、海馬、線条体のグルタミン酸量は雌雄ともに低下していた。
これらの実験成績から、この漢方薬は脳内のグルタミン酸量を低下させる。細胞外にグルタミン酸が過剰に存在すると脳細胞死が起こるが、この漢方薬がグルタミン酸量を低下させることは非常に興味深い。(平松、小松)
ラットグリア腫瘍細胞(C6)にグルタミン酸を加えると、細胞死が誘発される。
しかしこの漢方薬にはグルタミン酸による細胞死を抑制する働きが確認されている。
この抑制作用もこの漢方薬のフリーラジカル消去作用によるものと考えられる。またアルツハイマー病において脳内にアミロイドが蓄積するが、アミロイドはフリーラジカルを産生し、神経細胞死を引き起こすことが報告されている。
これらの知見から、この漢方薬にはアルツハイマー病の脳細胞死を抑制する作用があると考えられる。

6.記憶障害

痴呆の病態モデルとして、アセチルコリン拮抗薬であるスコポラミンを投与するモデルがある。
アルツハイマー型痴呆では、脳内のアセチルコリンの低下が認められているが、スコポラミンを投与したラットは空間認知障害、学習・記憶障害を示す。
この漢方薬を予め投与しておくと、スコポラミン投与ラットの空間認知障害は有意に改善する。
また、受動的回避反応を学習したラットにスコポラミンを投与すると学習能力が低下するが、この漢方薬の投与により学習能力は回復する。
痴呆の病態モデルを用いたこれらの実験成績から、この漢方薬は痴呆症患者の学習・記憶障害を改善すると考えられる。

7.臨床成績

水島は、老年痴呆の患者さんに8週間、この漢方薬を投与したところ、運動機能などの軽度改善以上は74%であったことを認めた。
稲永らは、認知障害のある患者にこの漢方薬を投与し、改善傾向のあることを報告している。
福島らは、脳血管障害後遺症に対してこの漢方薬を8週間投与したところ、全体の87.5%から62.5%に改善傾向がみられたことを報告している。
十束らは、アルツハイマー病患者にこの漢方薬を投与し、有意な改善効果を認めている。
このように臨床領域においては、運動機能、知的機能、感情機能、及びその他の精神病状において改善が報告されている。

8.結語

老化促進モデルマウス(SAMP8)は、学習・記憶障害が特徴的に見られ、主に中枢系の実験に用いられている。
3ヶ月齢の雌雄老化促進モデルマウスにこの漢方薬を3ヶ月間投与すると、雌群において大脳皮質、海馬及び線条体の_-アミノ酪酸(GABA)は増加することが明らかにされている。
この漢方薬は脳下垂体前葉に作用して性腺刺激ホルモンを分泌させ、エストロジェンの分泌を促進する。
エストロジェンはGABA量を増加させるので、この結果は、この漢方薬によるエストロジェン分泌促進作用を確認できる。
単一成分ではない漢方薬はその作用機序が複雑であるが、それゆえに多くの薬理作用を有している。
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ活性を抑制する単一の薬理作用に比べて、この6種類の生薬、混合漢方薬にはフリーラジカル消去作用、コリン作動性神経機能の賦活及び行動実験による空間認知障害の改善作用があり、臨床成績にも効果がみられ、また副作用の少ないことを考え合わせるとこの漢方薬は国際的にアルツハイマー型痴呆の治療薬もしくは予防薬となりうることが大いに期待できる。

 

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