漢方薬の歴史は三千年とも四千年ともいわれ、日本に伝わってからでも千年以上になります。
そして今、漢方薬は、国民の間に広く浸透し、日本の医療にとってなくてはならない役割を果たしています。
その背景には、漢方薬の品質が向上して、医師、薬剤師、患者さんからの信頼性が高まってきたこと、厚生省が進める医薬品の再評価試験で、いくつかの漢方薬処方の効能、効果が確認されたことなどが挙げられます。
多くの医師、薬剤師が、日常の中で、漢方薬を使うするようになりました。
現代西洋医薬と漢方薬の双方の良いところを活用することによって、より効果的な医療を実現できるからにほかなりません。
このように漢方薬に対する期待が高まったもう一つの背景として、疾患構造の変化が挙げられます。
戦後、抗生物質など化学療法薬の開発によって、結核などの感染症が激減し、乳幼児の死亡率も大幅に低下しました。
そして平均寿命が大幅に伸びました。
特に、わが国は世界一の長寿国となり、高齢者人口も増え続けています。
それとともに高血圧や心臓病、糖尿病、肝臓病などの生活習慣病(成人病)といわれる慢性疾患が増え、さらに生活習慣の近代化、モータリゼーションなどの普及で、ストレス病やアレルギー疾患に悩まされる人が増えています。
こうした慢性疾患、ストレス病、アレルギー疾患に対して、現代西洋医薬が効果を挙げる場合もありますが、これらの疾患に対して漢方薬は得意とするところで、優れた効果を発揮することが少なくありません。
現代西洋薬は、もともとは天然物(生薬)から出発したものですが、その有効成分だけを抽出(現在は化学合成している)して作られたものです。
それだけに病気そのものを攻撃して治す“切れ味の鋭い”作用を示す反面、効き目が強く出てしまったり、好ましくない作用が出てしまうことがあります。
それに比べて、漢方薬は生薬が主体で、成分も単一ではない複合剤です。
そのため、病気に対する“効き目はゆっくり”ですが、一つの漢方薬でさまざまな症状に対して効果を発揮する、まさに病人に優しい薬といえます。
漢方薬は病気を直接“攻撃”して治すというより、病人の全身状態を改善することによって、病気を治そうとするものです。
この点が西洋医学的治療法と大きく違っているところといえます。
しかし、漢方薬といえども副作用がないわけではありません。
中にはまれに間質性肺炎を起こすものもありますので、医師、薬剤師の指示を守って正しく服用することが大切です。
西洋薬、漢方薬のいずれを問わず、服用指導を通して、患者さん自身も積極的に医療に参加していくことが求められる時代になってきたと言えるでしょう。