重症筋無力症と漢方薬(2)

重症筋無力症と漢方薬(2)

重症筋無力症(神経疾患、末梢神経障害)

重症筋無力症は,抗体性および細胞性のアセチルコリン受容体破壊により,反復発作性の筋力低下および易疲労感を示す自己免疫障害である。
若年女性および高齢男性に多いが,あらゆる年齢に起こりうる。症状は筋肉活動により悪化し,安静により軽減する。
エドロホニウム静注試験で,筋力低下が短時間軽減された場合に本疾患と診断される。
治療には,抗コリンエステラーゼ薬,免疫抑制薬,コルチコステロイド,胸腺摘出術,プラスマフェレーシスなどがある

重症筋無力症は,シナプス後アセチルコリン受容体に対する自己免疫攻撃により,神経筋伝達が破綻することで生じる。
自己抗体産生の引き金は不明だが,胸腺の異常,甲状腺中毒症,およびその他の自己免疫障害を伴う。
筋無力症における胸腺の役割は不明であるが,65%の患者に胸腺肥大が,10%に胸腺腫が認められる。
増悪因子として,感染症,手術,ある種の薬物(例,アミノ配糖体系薬物,キニーネ,硫酸Mg,プロカインアミド,Ca拮抗薬)などが挙げられる。

重症筋無力症のまれな病型

眼筋型の重症筋無力症では,外眼筋のみが侵される。
先天性筋無力症は,小児期に始まるまれな常染色体劣性遺伝疾患であり,自己免疫障害ではなく,シナプス後受容体の構造的異常により生じる。眼筋麻痺がよくみられる。
新生児筋無力症は,重症筋無力症の女性が産んだ乳児の12%にみられる。
これは,胎盤を通って受動的に移行したIgG抗体に起因している。
全身の筋力低下が生じるが,抗体価が減少するにつれて数日から数週間のうちに消退する。
したがって,治療は通常支持的に行う。

重症筋無力症の症状と徴候

最も多い症状は,眼瞼下垂,複視,および運動後の筋力低下である。
筋肉を休ませると筋力低下は解消するが,再び筋肉を使うと再発する。
最初は40%,最終的には85%の患者で眼筋が侵される。
眼症状の後,全身性の筋無力症が発現する場合には,通常最初の3年以内に現れる。
近位肢の筋力低下が一般的である。
球症状(例,声の変化,鼻への逆流,むせ,嚥下困難)を訴えて受診する例もある。
感覚および深部腱反射は正常である。
数時間から数日の間に病状が強まったり弱まったりする。

筋無力症クリーゼ

重度の全身性四肢不全麻痺または生命を脅かす呼吸筋力低下であり,約10%の患者に起こる。
これは,免疫系を再活性化させる感染症の併発によりしばしば生じる。
呼吸機能が十分に働かなくなってくると,急速に呼吸不全を来すことがある。

重症筋無力症の診断

症状および徴候から診断が示唆され,検査により診断を確定する。
明らかな筋力低下のみられない筋無力症患者でも,ほとんどが短時間作用型(5分未満)
エドロホニウムを用いた抗コリンエステラーゼ検査で陽性を示す。
検査は,明らかな筋力低下を示す筋で行う。患者に対し,疲労が生じるまで罹患筋を使うように指示し
(例,眼瞼下垂が生じるまで両眼を開けたままでいる,または不明瞭言語が生じるまで大声で数を数える),
その後,エドロホニウム2mgを静注する。30秒以内に有害反応(例,徐脈,房室ブロック)が生じなければ,さらに8mgを投与する。
筋機能が速やかに(2分未満)回復した場合は陽性である。
しかしながら,こうした改善は他の神経筋障害でもみられるため,陽性結果は重症筋無力症を決定づけるものではない。
この検査によりコリン作動性クリーゼが悪化し,筋力低下が生じることもある。
検査の際には,心肺蘇生装置およびアトロピン(解毒薬として)を用意しておく必要がある。

抗コリンエステラーゼ検査が明らかに陽性であっても,確定診断には血清中抗アセチルコリン受容体抗体濃度,
筋電図検査(EMG),またはその両方が必要である。
抗体は,全身性筋無力症患者の90%に認められるが,眼筋型では50%にしかみられない。
抗体濃度と疾患重症度との間に相関性はない。
反復刺激(2〜3/秒)を用いたEMGでは,60%の患者で複合筋活動電位反応の振幅が大きく減少する。
単線維EMGではその値が95%以上向上する。

筋無力症と診断された場合には,胸郭のCTまたはMRIを実施し,胸腺腫の有無を確認すべきである。
重症筋無力症に関連して高頻度にみられる自己免疫障害(例,ビタミンB12欠乏症,甲状腺機能亢進症,RA,SLE)
のスクリーニングのために,他の検査も実施する。
ベッドサイドの肺機能検査(例,努力肺活量)は,切迫呼吸不全の検出に有用である。
筋無力症クリーゼの患者については,引き金となった感染の有無を評価することが必要である。

重症筋無力症の治療 = 調合漢方薬服用可能、鍼灸治療併用可能
呼吸不全の患者には,挿管および機械的換気が必要である。
抗コリンエステラーゼ薬およびプラスマフェレーシスは症状を緩和する;
コルチコステロイド,免疫抑制薬,および胸腺摘出術は,自己免疫応答の重症度を軽減する。
先天性筋無力症患者には,抗コリンエステラーゼ薬および免疫調節治療は効果がないため,避けるべきである。

重症筋無力症の対症療法 = 調合漢方薬服用可能、鍼灸治療併用可能

抗コリンエステラーゼ薬は対症療法の主力であるが,基礎にある疾患プロセスを変化させるわけではない。
さらに,全ての症状が軽減することはまれであり,これらの薬に対して筋無力症が不応性を示すようになることがある。
最初はピリドスチグミンを30〜60mg,経口にて3〜4時間毎に投与し,症状に応じて最大180mg/回まで増量する。
とりわけ朝に重度の嚥下困難を来す患者は,夜に長時間作用型180mgカプセルを服用させるのもよいが,
こうしたカプセルは次第に効かなくなる傾向がある。
非経口療法が必要な場合には(例,嚥下困難のため),ネオスチグミン(1mg=ピリドスチグミン60mg)で代用してもよい。
抗コリンエステラーゼ薬により腹部痙攣および下痢が生じることがあるが,
これには経口アトロピン0.4〜0.6mgまたはプロパンテリン15mg,1日3〜4回を投与する。

コリン作動性クリーゼは,過量のネオスチグミンまたはピリドスチグミン投与により生じる筋力低下である。
軽度のクリーゼは,筋無力症の悪化との鑑別が困難なことがある。
通常,重度のコリン作動性クリーゼでは,過度の流涙,流涎,頻脈,および下痢が生じるが,重症筋無力症ではこうした症状は起こらない。
これまで治療が奏効してきた患者の増悪に対するアプローチについては異論が多い。
筋無力症クリーゼの場合のみ筋力が改善するという理由で,エドロホニウム試験が有用と考える専門家もいる。
単に呼吸補助を開始し,数日間抗コリンエステラーゼ薬を中止してみることを勧める専門家もいる。

免疫調節治療 = 調合漢方薬服用可能、鍼灸治療併用可能

免疫抑制薬は自己免疫応答を阻害し,疾患の経過を遅らせるものの,症状を速やかに軽減するものではない。
静注免疫グロブリン400mg/kg,1日1回を5日間続けると,70%の患者は1〜2週間で改善する。効果は1〜2カ月持続することもある。

多くの患者には,維持療法としてコルチコステロイドが必要だが,筋無力症クリーゼに対する迅速な効果はあまりない。
半数以上の患者は,高用量コルチコステロイド開始後に急激な悪化を示す。
最初はプレドニゾン20mgを経口にて1日1回投与し,2〜3日毎に5mgの割合で最大60〜70mgまで増量した後,
1日おきに投与する。改善には数カ月を要することがある;その後は最低必要量まで減量すべきである。

アザチオプリン2.5〜3.5mg/kg,1日1回の経口投与はコルチコステロイドと同様に有効な場合があるが,
何カ月も続けても大きな効果が得られない場合もある。
シクロスポリン2〜2.5mg/kg,1日2回の経口投与により,コルチコステロイドの用量を低減できることがある。
これらの薬物については,通常通りの注意が必要である。
その他有効かもしれない薬物として,メトトレキサート,シクロホスファミド,ミコフェノール酸モフェチルなどがある。

胸腺摘出術は,60歳未満の大部分の全身性筋無力症患者にとって選択肢の1つであり,
胸腺腫を有する全ての患者に対して実施すべきである。
術後は80%の患者が寛解するか,または維持療法における用量低減が可能である。
筋無力症クリーゼ時および難治性患者の胸腺摘出術前には,プラスマフェレーシスが有用なことがある。

 

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