一般に脂肪組織というと、皮下や内臓周囲など、全身に広く分布している「白色脂肪組織white adipose tissue(WAT)」を指しています。ところが、私たち人間を含む哺乳動物には、形態も機能も異なる「褐色脂肪組織brown adipose tissue(BAT)」と呼ばれるもう一種類の脂肪組織が存在しているのです。両者はその名のとおり、色調の違いで容易に識別することができます。しかし、両脂肪組織の最も際立った違いは、その生理機能にあります。WATは過剰のエネルギーを中性脂肪として貯蔵する場所になっているのに対し、BATは、過食後の余分なエネルギー(中性脂肪)をミトコンドリアで酸化分解することにより、熱として体外へ放散する熱産生組織になっています。
すなわち、白色脂肪組織は脂肪を蓄えて肥満をもたらしますが、BATはその逆で、脂肪をどんどん燃やして熱に変え、全身の代謝を高めていくのです。ですから、BATを活発に働かすことができれば、もはや脂肪が貯まることはなく、肥満に悩まされることはありません。昔から「痩せの大食い」と言われた人たちも、今となってみれば、このBATの量や働きの違いから、科学的にうまく説明できます。
さて、ここまで話せば、私が使った「漢方の煎じ薬」の秘密が、ある程度予想できると思います。私が父から教わったこの漢方薬こそが、褐色脂肪組織であるBATの活動を促す薬、すなわちβ3‐アドレナリン受容体作動薬と呼ばれるものだったのです。まさに、人間に生来備わっている生体防御機能そのものに働きかける薬だったわけです。父は、おそらく、これまでの臨床経験と東洋医学の古典から学んだ知識とによってこの漢方の煎じ薬を選び、私の妹と友人の肥満治療に用いたと思われます。が、今から20年以上前に、すでにこのβ3‐アドレナリン受容体作動薬を肥満治療薬として使っていたことは、特筆すべきことだと考えられます。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。