「脳の老化」とは、脳細胞死のスピードが加速されることによって修復システムの限度を超える脳細胞の脱落が生じ、脳内の情報伝達のネットワークが徐々に縮小してゆく過程であるということが理解していただけたと思います。この現象自体は「生理的」なものであり、自然な老化現象の一部ととらえることができます。この過程で、修復システムが有効に作用している場合は「健忘」あるいは「正常」なボケの範囲であり、これが働かなくなると、「病的」なボケと定義することができるでしょう。
問題は、「自然な老化」の枠を超えて、何が脳細胞死のスピードを加速するのか、その原因は何かという点に絞られてきます。じつは、この原因の違いによって「病的」なボケ、つまり痴呆症は、現在のところ二つに大別されてきます。一つが脳血管の障害によって起こる痴呆、すなわち「脳血管性痴呆」であり、もう一つが「アルツハイマー病」です。両者の「混合型」も見られます。ただしアルツハイマー病とは、ある症状を発見した医師の名前をそのまま冠した病名にすぎず、確かな原因はつきとめられていないのが現状です。
ここまでの話を、もう一度整理しておきましょう。脳の老化には加齢にともなう「自然」で「生理的」で「正常」なものと、なんらかの原因で急速に進行する「病的」なものがあります。前者に見られるのは物忘れや記憶力の低下などの現象です。ただし、日常生活にさほど支障はありません。一方、後者の「症状」としては、前者に見られる現象が急速に進むのに加えて、思考力や判断力の鈍化、徘徊などの行動異常が出現します。
「病的」なボケ(痴呆症)は、原因によって、「脳血管性痴呆」と「アルツハイマー病」およびその「混合型」に分けられます。その比率は、欧米では脳血管性痴呆が三十パーセント、アルツハイマー病が六十パーセント、両者の混合型が十パーセントの割合となっています。わが国では脳血管性痴呆の割合が欧米の比べて高く、五十パーセントを占めています。アルツハイマー病が三十パーセント、両者の混合型が二十パーセントといわれていますが、近年はアルツハイマー病が増加の傾向を示しています。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。