空間認知(spatial cognition)とは、私たちが場所や道順などを記憶するために、いま自分のいる場所を、自然環境や人工的環境のなかのさまざまな物質(木、川、建物など)との空間関係を背景にして知り、行動する能力をいいます。大自然のなかで生活する動物たちにとっては、生きるための最も基本的な知的行動といわれています。
たとえば、蜂蜜が花から花へ訪れて蜜を集める場合、一度訪れた花にはけっして再び訪れることはありません。これで、合理的にすべての花の蜜を集めることができるわけです。これは、蜜蜂が花の特徴を一つ一つ覚えているわけではなく、花と茎などの個々の背景との位置関係、すなわち空間的情報を手がかりとして知ったものなのです。蜜蜂はこの方法を用いることによって、最小のエネルギーで最大の効果を得ることができます。
もちろん、人間も例外ではありません。このような動物に特有の脳の高次機能の働きによって、私たちは、「いま、自分はどこにいて、どこに行こうとしているのか」といった判断を瞬時に行なっているのです。ところが、痴呆症になると、この機能に異変が生じます。とくにアルツハイマー病の患者さんに特徴的なのが、この機能の喪失です。その結果、「失見当」などの行動に典型的な「空間認知障害」が現われます。
「空間認知機能」を実験的に調べる方法は、1979年にオルトンという学者によって開発されました。オルトンは「八方向放射状迷路装置」という実験装置を用いることによって、動物の「空間認知機能」を測定することに初めて成功しました。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。