私の祖父、初代大山宗伯が「この煎じ薬は、ボケに効く!ボケに効くんだ!」といって飲んでいた漢方薬があります。祖父は、私の顔を見るたびに何度も、この漢方薬を「研究しろ!」と言っていました。この漢方薬を、「もう1つの脳を守る漢方薬」と名づけておきます。祖父は、後頭部にある経絡から「視交叉上核に向かう鍼治療」と、この「もう1つの脳を守る漢方薬」で知人のボケがよくなったと自慢していました。
祖父が大好きだったこの漢方薬も、じつは、「脳を守る漢方薬#9」と同様に9種類の生薬をある一定の比率で配合することで、すばらしい効果を発現する種類のものでした。そして、その効果発現の中心になる生薬はマオウ科の植物の茎で、主要成分はアルカロイドのエフェドリン(ephedrine)と呼ばれるものです。この成分には中枢神経および交感神経興奮様作用、血圧効果作用、抗炎症・抗アレルギー作用、プロスタグランディン生合成阻害作用があることが確認されました。
この中心生薬を補佐している生薬はクスノキ科の植物の樹皮であり、主要成分は、精油成分シンナミック・アルデヒド(cinnamic aldehyde)と呼ばれるものですが、これだけでも、鎮静・鎮痙・解熱作用、末梢血管拡張作用、血液凝固抑制作用、抗炎症・抗アレルギー作用、抗菌作用があることが確認されました。さらに、残り7種類の生薬にも、この2種類ほど優れた効果はありませんでしたが、それぞれに補佐するような作用がありました。
ここで、私はもう1つ重要な事実をお話しなければなりません。きわめて重要なことですから、ぜひ頭に入れておいてください。それは、最新の漢方薬も最新の鍼灸治療も、病気の人間や少し体力が衰えている人間に対しては作用しますが、完全に健康な人間に対しては作用しないということなのです。つまり、人間が必要としている以上の効果は発現しないということなのです。
このことを理解するには、たとえば漢方薬や鍼灸の血圧降下作用や鎮痛作用を考えてみるのがわかりやすいと思います。いずれも正常血圧、正常疼痛閾値(普通に痛みを感じられる状態)までは下げますが、けっしてそれ以上は下げません。
これに対して、いわゆる西洋薬の場合はどうでしょう。合成新薬の血圧降下作用や鎮痛作用は強力ですが、強力すぎることが難点でもあるのです。重度の高血圧症の患者なら良い場合もあるのですが、軽度や境界領域や、「未病」の患者さんがある種の血圧降下剤を飲むと、血圧は必要以上に下がってしまい、正常以下になってしまいます。さらに、モルヒネやペンタゾシンのような鎮痛剤にも同様な作用があります。常用していると痛みに対して鈍感になり、生体の警告信号としての重要な役割を果たさなくなってしまいます。
東洋医学の手法の基本は、私たちが生まれながらに持っている生体防御システムを活性化させ、駆動させて健康にするという考え方です。私たちの体が完全に正常な状態なら、生体防御システムは駆動しません。健康状態が乱れたときだけ、また乱れた分だけ、必要な防御システムを働かせ、正常な状態に戻そうというのが東洋医学の根本になっています。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。