私の提唱する「養生の道」とは、まず現在の自分の健康状態を的確に判断することから始まります。これには、最先端の臨床心理学を導入した手法を用いる必要があります。具体的には、まず個人のパーソナリティーを分析し、自分の弱点を知ります。そして、病気の発症のきっかけになる種々のストレスの度合いを測定します。さらに、3つの精神神経調査プログラムを用いて、個人の人格を多面的に分析します。そして最後に、個人の取る行動パターンを分析して、未来の発病を予測します。
次に、これらのデータを総合的に評価・判断して、適切な「3つの東洋医学的手法」を選びます。そして、個人個人がよりいっそう健康になるためのプログラムが組まれます。これに基づいて、それぞれが自分に合った「養生の法」を実施すれば、老化のスピードを緩めて、よりいっそう健康になれるということです。
つまり、病気を防いで長生きするという考え方ではなく、一歩進んで、つねに健康であって長生きする、つねに健康を増進させて長生きする、つねに完全なる健康を目指して人生を歩みつづけるという考え方です。この発想こそが「養生の道」であり、「みずからの意志で、みずからの生命を養って生きていく」という意味なのです。
人間の生命の流れは、自然老化現象が存在する以上、放っておけば死に向かって流れているといえます(ヘルス・デス・フロー(A))。つまり、自然老化現象が絶対的な力として存在しているかぎり、健康維持という考え方では、衰退の方向、死の方向に流れていると考えられます。
その意味で、私たちの周囲を見渡したとき、健康に対する意識、自覚があまりにも少ないように思えてなりません。より正確に言うなら、いま、自分は「未病」の状態にいる、ということへの自覚がないということでもあります。環境汚染がこれほど進んでしまった現代社会のなかで生きている私たちには、どんなに自分は健康だと思っていても、空気が悪いとか、水が悪いとか、数えあげればきりがないほど、多くのリスクを背負わされているのです。ですから、現在、健康な人もそうでない人も、早急に健康に対する意識革命を起こして、「養生の道」を歩んでもらいたいと思います。
もう一度、「ヘルス・デス・フロー図」の死から健康に向かう矢印を見てください。この矢印は、人間の生命力、生体防御システムの力の強さを表しています。みずから養生して、健康を増進させることがいちばん重要であることがすぐに理解できると思います。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。