現在、アルツハイマー病の特効薬と呼べるものは存在しません。そこで、臨床の現場では、随伴症状に重点をおいた投薬がしばしばなされています。
たとえばうつ状態になった患者さんには、抗うつ薬や抗不安薬などが処方されています。また徘徊や夜間の目覚め、叫び声、不機嫌、イライラ、異常な興奮状態からくる攻撃的行動をするようになってしまった患者さんには、睡眠薬や強い鎮静作用を持つ抗精神病薬などが処方されています。
これらの薬は、介護するご家族の負担を軽減するのには役立っていますが、患者さん本人にとってはどうでしょう。たとえば強い抗精神病薬などが処方された場合は、効果が強すぎて本人の意欲や活動までそいでしまう場合があるかもしれません。また、アルツハイマー病は5年、10年と長期にわたって徐々に病状が悪化する病気なので、強い抗精神病薬の長期投与は、その強い副作用が患者さんの臓器を破壊しかねないのです。さらに、これらの薬は、患者さんの脳の中で次々に加速する脳細胞死を防ぐ薬、つまり、アルツハイマー病そのものの進行をストップさせる薬ではないことを、くれぐれも理解していなければなりません。
そこで現在、アルツハイマー病の治療方法としては、著しく減少した神経伝達物質、アセチルコリンの量を増やして、衰えた脳細胞の機能を正常レベルまで回復させるということが考えられています。そこで登場したのがTHA(tetra hydroamino acridine)という薬です。
この薬はコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれ、脳のシナプス内に放出されたアセチルコリンのなかで、神経伝達物質の役目を果たさずに、余ったアセチルコリンをすみやかに分解する酵素、コリンエステラーゼの働きを抑制する作用を持っています。すなわち、アルツハイマー病の患者さんは脳内のアセチルコリン合成酵素(キャット)の働きが弱いために、アセチルコリンが少量しか合成されません。そこで、アセチルコリン分解酵素(コリンエステラーゼ)の働きも弱くすれば、余ったアセチルコリンの分解が抑制され、他の脳細胞で再利用され、バランスが取れるというわけです。
ところが、実際にアルツハイマー病の患者さんの脳で起こっているのは、前述したようにアセチルコリン合成酵素(キャット)の活性が落ちていることで、コリンエステラーゼの活性が高まっているわけではないのです。ですから、キャットの活性をあげることができる薬があれば、その薬のほうがさらにレベルが上になるはずです。
じつは、「脳を守る漢方薬#5」には、このキャットの活性を高める作用があったのです。ご存知のように植物を原料としているので、長期にわたって飲みつづけてもまったく安全で、その効力においても、その安全性においても、現代科学の結晶ともいえる合成新薬よりはるかに上のレベルをいく、最高の薬といえるのです(引用文献⑤)。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。