さて、死に掛けた脳細胞を取り出してよく調べてみると、脳細胞内にはカルシウムが溜まっていました。そして細胞外には「グルタミン酸」という物質がひじょうに多く集まっていました。グルタミン酸はよく知られているアミノ酸ですが、脳内では興奮性の神経伝達物質になっていて、ほぼ脳の全領域で働いています。
ここで1つ注意しなければいけないのは、この興奮性アミノ酸のグルタミン酸が脳に増えすぎると、脳細胞が興奮しすぎて、過労死を起こすという事実です。そしてじつは、これが例の遅発性脳細胞死の原因になると考えられているのです。
それでは、私たちの脳の中で、なぜDND(遅発性脳細胞死)が起こるのか、その秘密を探ってみましょう。
脳細胞の外に興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸がたくさんの集まってくると、これを受ける側の興奮性アミノ酸受容体の1つで「NMDA受容体(N-methyl-D-aspartate receptor)」というものが活性化されます。すると脳細胞の中にカルシウム・イオンが溜まってきます。このカルシウム・イオンが脳細胞内に溜まってくると「NOS(一酸化窒素合成酵素)」と呼ばれる酵素が急速に活性化されてしまうのです。
NOSは名前のとおり「一酸化窒素(NO)」を合成する酵素ですから、このNOSが活性化されるということは、脳細胞内でどんどんNOが合成され、脳のいたるところにNOがいるという状態になってしまうことを意味します。
NO(一酸化窒素)というと、「悪魔の酸素」のところでご紹介したのを覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、活性酸素のなかで発生率においてトップを誇る、例のスーパーオキシド・ラジカルがみずからを犠牲にして、すぐに反応を起こして帝王・ヒドロキシルラジカルを誕生させるもとになる物質です。つまり、悪魔の酸素のなかで最高の破壊力を持つとされる帝王・ヒドロキシルラジカルの、いちばん早い発生源になる物質なのです。ですから、NOが脳内に大量に存在するということは、ヒドロキシルラジカルが脳内に大量に発生することにつながります。そして大量に発生したヒドロキシルラジカルが私たちの脳細胞を無差別に再生連鎖攻撃をして、分子レベルで破壊しつづけ、脳細胞死の引き金を引くということになるわけです。
さらに、虚血状態の後に再び血流を元に戻すと、血管内に悪魔の酸素(活性酸素)が大量に発生することが知られています。やはり、脳細胞死の裏では、悪魔の酸素がいろいろと悪さをしているのです。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。