現在、一般的に行なわれている肥満治療では、「食事療法」と「運動療法」が基本になっているようです。これらの方法は理論的には同じもので、絶食や負荷運動などをして生体をエネルギー不足状態に追い込むことにより、白色脂肪組織内に蓄積している中性脂肪を分解して脂肪酸として血液中に放出させ、これをエネルギー気質として全身で利用させようとするものです。もちろん、これらの方法は現在でも肥満治療の基本で、本人の努力しだいで確実に効果は上がります。しかし、現代の最先端の科学レベルから見れば、すでに10年以上遅れている方法と言わねばなりません。
じつは、前述したβ3‐アドレナリン受容体作動薬には、もっと凄い作用があったのです。この薬は、単にBATの働きを活発にするだけではなく、白色脂肪組織にも作用して、直接この組織を分解し、蓄積している中性脂肪をどんどん燃やしてしまうことがわかってきました。さらに、もっと驚くことには、このβ3‐アドレナリン受容体作動薬は、膵臓のランゲルハンス島β細胞にも作用して、インスリンの分泌も著しく亢進させるのです。
なんと、この薬はBATを活性化させ、さらに白色脂肪を遊離脂肪酸に分解して、また一方では、β細胞からインスリン分泌をも亢進させるとなると、血中に増加したこの遊離脂肪酸は、この分泌されたインスリンのために、なんの障害もなしに(ケトン体の増加を起こすことなしに)ただちに褐色脂肪に取り込まれて体外へ熱産生の形で処理されることになります。そうなれば、なにも無理して生体をエネルギー不足状態に追い込まなくてもよいということになります。つまりこの薬は、単に肥満の治療薬としてだけではなく、肥満をともなう糖尿病の新治療薬としても大いに期待できることにもなります。
なるほど、今から思えば、私が友人の肥満を治したのも、近い将来、、間違いなく成人病に罹患するだろうとまで言われた健康状態を正常に戻したのも、きわめて当然のことだったのです。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。