ストレスと生体防御システムの関係を、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。医学の領域に初めて「ストレス」という言葉を持ち込んだセリエ博士は、その後、生体に加えられるストレスを次のように定義しました。
「ストレスとは、体外から加えられた各種の刺激に応じて、体内に生じた障害反応と防御反応の総和である」
たとえば障害反応をプラス5とし、これに対する防衛(防御)反応をマイナス3とすれば、その総和であるストレスはプラス2となります。つまり障害反応が防御システムをプラス2上回り、その分だけ生体防御システムが乱れる(生体に歪みが生じる)ことになります。
私たちは強いストレスを受けると、体温、血圧、血糖が下がり、胃腸にびらんなどが生じるようなショック症状を起こします。これが「体内に生じた障害反応」です。これに対して、生体防御システムが働きます。そして「防衛反応」として副腎皮質の肥大や胸腺リンパ器官の萎縮が起こり、下がった体温、血圧、血糖を上昇させ、胃腸のびらんの修復作業も始まります。ショック状態はすみやかに回復し、適応状態を経て、やがて正常な状態に戻るというのが一般的な経過です。
ところが、ストレスの度合いがさらに強かったり、長期間にわたって持続したりすると、適応状態が壊れて、再び体温、血圧が下がり、胃腸にびらんが生じ、胸腺リンパ器官は萎縮し、最後にはショック死するようなことになります。「障害反応」が「防衛反応」を上回ったことを示しています。
私たちはストレスを受けたとき、そのストレスから逃げるか、立ち向かって解決・克服するか、それとも耐えるかなど、なんらかの対処行動をとります。その対処法は異なっていても、これらはいずれも前述した(1)の「中枢神経防御システム」による防衛反応になります。随意的、つまりみずからの意志で実行できる防御法です。
一方、このとい、同時に私たちの体は、このストレスによって生じた体内(体温や血圧などの内部環境)の歪みもすばやく元に戻そうとします。すなわち、生体内の環境を一定に保つシステムが働くのです。これは「恒常性(ホメオスターシス)の維持」と呼ばれ、前述した(2)「自律神経防御システム」、(3)「内分泌防御システム」と(4)「免疫防御システム」による防衛反応になります。そしてこれらのシステムは、いずれも脳の視床下部にそのコントロール中枢を持っています。
一般的には、第一の生体防御システムである「中枢神経防御システム」をうまく使い、適切な対処行動がとれれば、生体は健康状態を保てます。もし不十分な対処行動しか取れなかった場合でも、第2、第3、第4の生体防御システムが働いて内部環境が維持され、健康状態を保てるのが普通です。
しかし、ストレスが強すぎて私たち個人の防御能力を超えたり、ストレスの程度は普通でも、私たち個人の防御能力が弱まっていたりすると、生体は健康状態を保てなくなり、発病に至ります。個々のストレスと発病とのメカニズムについては説明を省きますが、風邪から成人病、ガンに至るまで、すべての病気がなんらかの精神的・肉体的なストレスに端を発し、これに屈した結果であることだけはまちがいありません。このような状況下でこそ、私の提唱する「養生の法」が必要になってくるのです。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。