現在、西洋薬として使われている薬草の40パーセント以上は、天然物に由来するものです。つまり、西洋医学として天然の植物を治療に応用してきたことに変わりはありません。
漢方薬と西洋薬のきわだった差異は、その薬の作用、効果の強さに対する受けとめ方と考えられます。基本的に西洋薬では、強い効果を持つ薬物ほどよいものと考えられています。そのため、漢方薬と西洋薬は、同じ天然物を出発材料としていても、西洋薬はより強い効果を求めて、有効成分のみを抽出して用いたり、さらに生理活性物質を単離し、構造決定し、化学合成するようになり、より強い活性を求めて、次には誘導体を作り、合成新薬開発への道を進んできました。
一方、漢方薬は、強い作用よりも、乱れた体のバランスを回復させる効果を持った薬がよいと考えられています。つまり最高の漢方薬とは、生体との相互作用による自動調節機能を有している薬ということになります。前章で述べたさまざまな生体防御システムを駆動させて、乱れた体のバランスを回復させるのが最大の特徴になっています。
西洋薬は、おもに「対症療法」を目的とした薬である、ということもできるでしょう。ただし、これは疾患の原因がわからない場合であって、原因がはっきりしたものであれば、西洋薬とて完全な根治療法になり、その意味では、最終目標は漢方薬と同じです。ただ、漢方薬は天然の生薬を用いているため、西洋薬のように1つの特定の薬効を持つことはほとんどない、つまり、症状は漢方薬を投与するための目安ではあるが、その症状が取れるということは、体が完全な状態になったことを意味しています。
専門的に言えば、漢方薬は陰陽、虚実のバランスを整える薬です。漢方薬には、プラスとマイナスの相反する効果が同時に存在していることになりますが、このような薬効は、西洋薬にとっては自己矛盾でしかありません。このために東洋医学と西洋医学は、なかなか歩み寄れないのです。
漢方薬の効果についての基本的な考え方は、約2000年前に記述された東洋医学の古典、『神農本草経』の中に、すでに見いだすことができます。ごく簡単に紹介しておきましょう。
まず、生体に対する作用をレベルによって3つのカテゴリーに分けています。その最もレベルの高い、最高の薬を「上薬」として120種類挙げ、これらは毒がなく、寿命を延ばす作用がある薬で、毎日服用すべしとしています。次に「中薬」として120種類挙げていて、時に毒があり、大量に用いれば体に悪いこともあるが、新陳代謝を活性化するので、毎日適量なら服用してよいとしています。最後に「下薬」として125種類挙げて、程度の差はありますが、必ず毒があり、しかし、体にある病魔と闘う力はきわめて強いので、一定期間、時間を限って使用する薬であるとしています。これが、先に述べた漢方薬の「プラスとマイナスの相反する効果」であり、そのバランスこそが漢方薬の命ということになります。このような考え方からいくと、効果は強力だが副作用もある西洋薬は、すべて「下薬」というカテゴリーに位置してしまいます。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。