脳細胞のもう1つの大きな特徴は「自動的に死ぬ」ということです。繰り返しますが、脳細胞は、胎生期においてさかんに分裂・分化しますが、出生後には二度と細胞分裂を行ないません。それどころか、神経系の発達過程で、神経連絡や神経回路の形成時期に、自然に細胞が死んでいくという「自然細胞死」の性質を持っているのです。
1950年代にドイツのブロディ博士という大脳生理学者が脳の病気以外の原因で死んだ人の脳を数多く提供してもらい、それを年齢層ごとに集計して比較しました。ブロディ博士は、これらの脳の大脳皮質を前頭葉と後頭葉に分け、組織の切片を取り出し、顕微鏡で丹念に脳細胞の数を数えたといいます。この研究成果が発表されたのは、博士の死後の1955年のことです。
博士の研究によると、前頭葉の脳細胞は生まれた直後から20歳を迎えるまでに半数近くが自然に死んでしまうというのです。この前頭葉の脳細胞は、その後も少ずつ、ほぼ一定のペースで自然に死につづけ、80歳を迎えるころには、なんと20歳時に比べて、脳細胞の数は63パーセントにまで減少することになります。これを日割り計算すると、私たちの人間の脳細胞は、1日平均約10万個のペースで自動的に死んでいるということになります。
さぞ驚かれたことと思いますが、だからといって、さほど深刻になる必要はありません。加齢とともに脳細胞がどんどん死滅していくのは事実ですが、生き残った細胞が機能しているかぎり、ボケとも無縁に暮らせますし、ましてや生命に別状があるわけではありません。ある科学者の試算によれば、脳細胞が死滅して生命の危機にさらされるのは、20歳のころの約3分の1の量にまで減少した場合だといいます。そして、これを前提にして大まかに計算すれば、脳に関するかぎり、人間は140歳まで生きられることになります。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。