それでは、アルツハイマー病の脳と、一般的な意味で老化した脳では、脳の異常にどのような違いが認められるのでしょうか。
まず、アルツハイマー病でボケの程度と最もよく相関した病変は、大脳皮質の脳細胞の脱落と、それにともなうシナプスの著しい減少です。「脳細胞の脱落」とは、脳細胞死により死滅した細胞が、グリア細胞によって貪食され、抜け落ちていくことをいいます。
もう少し説明を加えておきましょう。脳の最小機能単位はニューロン(神経細胞=脳細胞)であり、これは突起を持ち、神経伝達物質を合成して興奮の伝達や情報の伝達といった脳の華やかな主役的役割を果たしています。じつは脳にはニューロンだけがあるのではなく、ニューロンを支持して栄養を与える「グリア細胞」と呼ばれるもう1つの重要な細胞があります。
「グリア細胞」は神経膠細胞とも呼ばれ、脳細胞同士をくっつけて大脳皮質の形を維持している膠のような役割をする細胞です。この細胞はタコの足のような突起を出して毛細血管に巻きつけ、血管を流れて運ばれてくる酸素や栄養物をニューロンに与えたり、脳細胞から出される老廃物をすみやかに除去したり、有害物質の侵入を防いでニューロンを守ったりしている細胞です。さらに、ニューロンが死ぬと、すみやかにこれを回収する役割も担っています。事実、ある脳細胞が死ぬと、1時間もしないうちにグリア細胞がこれを食べ終えて、跡形もなく回収し、その空いた部位を埋めていくようすが顕微鏡で観察されています。つまり、グリア細胞は、脳細胞を揺り籠から墓場まで面倒をみている細胞なのです。
脳細胞が死滅すると、その跡をグリア細胞が埋めて各細胞間のネットワークを保持します。つまり、脳細胞が減ると、その分グリア細胞が増えることは事実ですが、その機能についてはまだまだ脳細胞以上にわからないことが多く、ブラックボックスになっています。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。