アルツハイマー病でおびただしい数の脳細胞死が起こる部位は、大脳皮質、海馬、視交叉上核などですが、これらの部位は、すべてアセチルコリンを神経伝達物質とする脳細胞が密集しているところです。つまり、アルツハイマー病になると、アセチルコリンに支配される脳細胞が集中して死滅するということになります。
また、アルツハイマー病で亡くなった患者さんの脳を調べてみますと脳細胞の数が減っているだけでなく、脳内のアセチルコリンの量が90パーセント以上も減少していることが確認されています。さらに、脱落せずに残った脳細胞についても、アセチルコリンを合成する酵素がひじょうに少なくなっていて、酵素活性も大幅に低下していることも確認されています。
アセチルコリンを合成する酵素は、コリン・アセチル・トランスフェラーゼ(choline acetyltransferase)という名前の酵素で、通称“CAT(以下「キャット」)”と呼ばれています。
数ある神経伝達物質のなかで、生体にとってノルアドレナリンと並び最重要と称されるアセチルコリンは、コリンとアセチルCoAを基質としてキャットによって生合成されます。シナプス内に放出されたアセチルコリンは、すみやかに情報伝達の仕事を終えると、余ったアセチルコリンは、コリンエステラーゼと呼ばれる強力な分解酵素によってすぐにコリンと酢酸に分解されてしまいます。そのコリンが再びキャットに再利用され、アセチルコリンが合成されるという具合になっています。つまり、アルツハイマー病の患者さんの脳細胞は、コリンがたくさんあってもこのキャットの働きが弱くなっているために、アセチルコリンがほんのわずかしか合成されないということです。
以上、岡山大学 医学博士 大山博行著 「脳を守る漢方薬」より引用
詳しくは、光文社カッパブックス「脳を守る漢方薬」を御一読ください。